『資本論』以後150年の現代と私

「資本論」でマルクスは何を明らかにしているかをつかみ、現代にどのように生かすべきかを考えます。

100de名著カール・マルクス資本論」で〝賃金上げを求めるより時短が大事〟だって! 俺たちの低賃金がどんなもんだか知っているのか? 😠  

ーー斎藤が春闘開始を前に賃上げ闘争を否定

 

 まったく驚いた。露骨にもほどがある。NHK Eテレでちょうど一月の春闘開始直前のタイミングで「賃金上げるより時短を求めるのが大事です」と言うとは驚いた。幸平はネット上で、番組直後に言い訳がましく言っている。「時短が大切だってことを言ったけど、番組では説明がわかりにくかったかもしれないよね。テキストを読んでもらえれば、私の言いたいことがよくわかると思います」だって。斎藤がそう言うなら、というので、俺はテキストを読んだよ。こう書いてある。少し長いけど、引用しよう。

 「賃上げされたとしても、長時間労働が解消されなければ意味がない、ということです。資本家が賃上げ要求を飲めば【飲んでないだろ!】たしかに搾取は緩和されるでしょう。けれども、資本の論理に包摂された資本主義社会の労働者は、「では、我々は頑張って働きます!」ということになる。これは、むしろ企業にとって都合のいい展開なのです。賃金を少しばかり上げて、その代わりに長時間労働もいとわず〝自発的に〟頑張ってくれるならば、剰余価値――つまり資本家のもうけは、かえって増えるかもしれないからです。

 資本家の狙いは、労働力という「富」を「商品」として閉じ込めておくこと。「商品」に閉じ込めておくというのは、自由な時間を奪うということです。」だから、「商品」に閉じ込められていることから自由になれる時間を労働者は資本家から求めよう、それが〝労働時間の短縮〟というわけなのである。

 斎藤がこんなこと言っているよ、と、私の妻に話した。妻は「斎藤さんってお金困ってないんだね」って怒っていた。コロナ感染を理由にして政府がいま企業に時短を要請し、その他方で、営業時間の短縮に応じた企業にはたった6万円(上限)/日を支給するなんてやってる。バイトで生活費を得ている学生は労働時間を短縮され、賃金をけずりとられ、さらには時短どころかクビにされて、生活費の工面も難しくなり、大学をやめなきゃならなくなってさえいる。学生が同時に労働者として働かなければならず、しかし、労働時間を奪われ、その結果、賃金をカットさている。多くの学生の親もまた、同じような目に資本家によってあわされているってことを知らないのか、斎藤准教授は。いや知らないとは言わせない。

 そもそも斎藤は「賃金上げるのを求めるより時短を」というような発言、要するに賃金を上げる闘いを否定するような発言をしたのはこれが初めてなんじゃないかと思う。なぜ、いま斎藤は露骨な賃上げ闘争否定の主張をし始めたのか?彼は労働者の立場にたっているかのようにふるまっている。なによりマルクスの「資本論」を解説しているのだから。しかし、学生や労働者が「資本論」から自分たちの措かれた状況を変えるための理論や哲学を学ぼうとしていることにたいして、実のところ彼は巧みな歪曲をおこなっているのである。学生や若い労働者は斎藤の資本論の歪曲を見抜くのでなければいけないと思う。一体、なぜ、彼はこのようなことを言い始めたのか?

 この番組が新年早々から始まり、番組がおわった翌日の1月26日に春闘がスタートした。「労使フォーラム」で経団連中西会長と連合の神津会長がリモート会談、とニュースが流れた。このことが背景であるのはまちがいない。だから斎藤も何か弁解がましく、「番組ではうまくしゃべることができなかったから、テキストを読んでほしい」、なんて言ったんだ。

 これは許せない。

 この「労使フォーラム」は、今年の春闘で「労使交渉」にどういう指針で企業経営者は取り組むべきか、を経団連として確認する場である。これに連合の神津会長が参加し講演している。こういう労使の協議を「春闘」と称しているのだが。この場で中西会長はコロナ感染の影響によって「企業の業績は悪化している」、だから「一律の賃上げは現実的ではない」と言い放っている。要するに賃上げはしないとの宣言である。中西の腹の中はこうだ。企業経営者はいま「脱炭素の産業構造への転換」のために必死である。研究開発のための資金を投下しなければならない。賃上げに応じるための資金はない。むしろ石油、石炭、液化天然ガスなど、従来のエネルギー関連産業は事業を閉鎖したり早々に工場やパイプライン、輸送手段、などの生産設備の廃棄や労働者の大量解雇をやらなければならないのだ。こういうことを焦りながら考えているのである。

 こうした春闘開始の前日というタイミングにおいて、独占資本のこうした腹を重々承知している連合の労働貴族たちがあたかも賃金引上げをもとめているという姿勢を表向きは示している。しかし、おそらくはNHKの経営陣と番組作成のための打ち合わせにおいても斎藤は賃上げに水をさすことを「資本論」の解釈でもって発言できないかと遠回しに要請されたに違いないのである。「賃金上げるのは良くない」とは言わないでもよい、賃金あげるよりももっと必要な労働者の要求もあるというようなトーンならできないか、というように。あなたのコモン思想を存分に宣伝してもらいたいから言っているのだ、とかこういう番組のプロデューサーというのは実に狡猾だから。だから、斎藤はネット上で、「番組ではうまく説明できてないから、テキストを読んでほしい」などと弁解しているのだ。語るに落ちる、というものである。

 しかし、この番組ではじめて「資本論」を学ぼうとする学生や受験生などがほとんどだろう。斎藤は「資本論」を研究する学者で、有名な学術賞もとった、などという肩書を披歴している。そういう人間がマルクスの主張だと称して賃金闘争の否定をした。これは、「資本論」のマルクスの思想、現代の格差社会を変革するための生きた思想を葬り去るための言説を垂れ流そうとするものではないか。これをのりこえ若者は現在の格差の拡大、解雇、環境破壊、こうした矛盾をはらむ資本主義社会を変革するために「資本論」の理論を適用しよう。